例えて言うなら、それは。



さあっと爽やかな風が頬を撫でて行った気がした。
その感覚に。
少しだけ睫毛を震わせて、ぼんやりと瞳を開けてみた。


そこには、昨日いたはずの人はいなかった。



ああ、そっか。
今日は早番だ。
そんなことを言ってたような気するわ。
もう、そんな時間なんや。



とろとろとしたまどろみのなかで、セルフィは思う。
今は、一時期の暑さもなくなって、大分過ごし易くなってきていて。
それは、少し他所よりも夏の時期が長い、ここバラムでもそうだった。
だけど、どうしてだろう。ちょっといつもより暖かさが多いような気がする。暖かいけど、ちょっとだけ暑いような。そんな、いつもとは違う感覚に伴うちょっとした違和感が気になった。だからきちんと目を見開いて見回してみた。
夜、ちょっと寒いな、そう思ってかけた布団は、やっぱりきちんと自分の上に掛けられていた。
そっか。
だからやったんや。
そのことに、思わずくすりと笑ってしまう。この布団を掛けたのは、きっと自分ではない。それが分かっているから、だから笑ってしまった。


アタシはとても寝相が悪い。それに、最近、夜掛けた布団は、いつも朝にはどこかに蹴っ飛ばされている。夜はかなり涼しくて、朝も、今までよりは大分涼しくはなっているけれど、それでも明け方から陽射しが部屋に入り込むと、どうしてもちょっとじんわり暑くなる。だからいつも、布団から足だけ飛び出していたり、蹴っ飛ばしていたりする。きっと今朝もそうだったはずなのだ。
だけど。
布団を掛けた状態で目を覚ましているということは。
それは、アタシが1人じゃなかったからだ。
それを掛けていった人がいるから。
だから、1人じゃない。


そう思うと、どうしてだろう。
何だか、とてもくすぐったいような、そんな暖かい気持ちに襲われた。
1人じゃない。誰かがいる。
アタシのこと、ちゃんと見てる人がいる。アタシは1人じゃない。
そう思うことは、とてもふんわりとした暖かさをアタシにくれる。


アタシは。
ううん、アタシたちはみんな、どういうわけか1人になるのが怖いこどもだった。
ゼルはまだましだけど。寂しがりのスコールはもちろん、しっかりもののキスティも、賑やかしなアタシも。それからこの布団を掛けていった、人当たりのいい彼も。みんなに好かれるリノアさえ。
アタシたちは、みんな1人が怖いこどもだった。
1人で平気な振りをしてても。自分は自分として認められていたいくせに、1人にはなりたくない。置いていかれたくない。その思いから抜け出せないこどもだった。
こどもだった、って言うのは間違い。
今でも、アタシたちは1人になりたくないこどもだ。
だって、今でも、アタシには、アタシたちには、1人になることの恐怖を拭い去れない。
1人でないことに喜びを感じることを知ったけど、でもそれは1人になりたくない、という切実な思いがあるからで。
だから、アタシたちは、まだ1人が怖いこどもなのだ。


でも、それを今は、堂々と認められる。
アタシはまだまだこどもだ。
皆も、まだまだこどもだ。
それを、はっきり言う事が出来る。


それを認められたのは、多分。
どこがいいんだか分からないけれど、アタシのことが好きだという人。アタシの傍にいたがる人。やたら世話焼きで、やたら人のこと気遣ってる人のおかげなんだろう。
あの人は、アタシを見捨てないから。
アタシを1人にしないから。
1人の怖さを知っている人だから、アタシを1人にしていかない。
アタシも1人の怖さを知っているから、あの人を1人にしない。
それって、やっぱり。
例えて言うなら、それは。


陽射しはどんどん強くなっていく。カーテン越しに透ける向こうの世界は、とても眩しかった。
ちょっと暑くなって、ひょいっと足だけを布団から抜け出させた。
爽やかな、涼しげな空気が足にひんやりと気持ちいい。ちょっとだけばたばた、と動かしてみた。空気に触れて、温まった世界から飛び出して、アタシはだんだんと目が覚める。


「そろそろ、起きよ・・・っかなあ。」


よいせっと、起き上がった。
布団をはねのけて起き上がると、やっぱりちょっとだけ寒かった。それはそうだ。アタシはキャミソールと短パンしか着ていなくって。寝起きのからだに、涼しげな空気はとても堪える。慌てて、横に放り出していたカーデガンとパンツを羽織った。
とてとて、とテーブルの方に向かう。するとやっぱり。彼が先に出てしまうときはいつものことなのだけれど、ポットとサンドイッチが置いてあった。
そして、横には几帳面な文字で書かれたメモも。


『おはよ、セフィ。
今日は僕は早番だから、先に行ってるね。セフィは、後からゆっくりおいで。
朝ごはん、作ったからちゃんと食べるんだよ。

アーヴィン。』



「アタシ、朝はそんなに食べられないの、知ってんのにー。」


メモをちらっと見て、サンドイッチの入ったプレートを覗いて、思わず苦笑した。昨日のローストチキンを細かく割いてマヨネーズで合えたもの。ポテトとチーズが挟まったもの。ツナとハーブ、アボカド。どれもこれも、ボリュームたっぷりのものばかりだ。・・・こんなに食べられないよ。
でも。
一番隅に、チョコペーストとバナナを挟んだものを見つけた。これやったら、食べられそう。これ、多分デザートのつもりやったんやろうけど。でも、朝からこんなにたくさん食べられんもん。とりあえずこれだけ食べて、後の残りはランチボックスにいれて持って行こうか。
うん、そーしよう。
アーヴィンは「ちゃんと食べるんだよ」って言ってたけど。もともと、アタシ、朝ごはん食べる習慣あんまないし。無理なもんは無理やし。
一切れでも食べれば、いいよね。


ポットに入ったコーヒーを牛乳で割ってカフェオレをいれて。それからチョコサンドをぱくり、と頬張った。


「あまーい・・」


甘いけど、それはしつこい甘さではなかった。
こってり甘いの、アタシはあんまり好きでない。甘さはないとイヤだけど、甘すぎるのもイヤなの。そういう、アタシの我がまま、やっぱりアーヴィンは分かってるんだなあ。にんまりしながら、カフェオレを啜った。
置いてあったメモを、「マメやな」とか思いながらつまみ上げてみる。


「あれ?」


さっきは気がつかなかったけれど、裏にもこっそりと何か書いてあった。
なんだろ?と思いつつ眺めて。
それから。
書いてあったことに、噴出してしまった。


やだなあ。
アタシの考えることは全部お見通し、ってやつなんかなあ。
やだなあ。


だけど、イヤだとか言いつつ、イヤじゃないんだ。
だって、アタシはやっぱりいま、にんまりと笑ってる。きっとこのメモを書いていたときのアーヴィンもそうだったに違いない。にんまりしながら、書いてたに決まってる。だから、こんな裏面に書いてるんだ。アタシが裏も見るだろう、そんなこと思って。


そう。
君だけじゃないよ。お見通しなのは。
アタシだって、お見通しだよ。
きっと、今日彼は、お昼を食べずに、絶対アタシを待っている。アタシがガーデンに出勤するのはお昼をちょっと回ったあたりだけど、それまで絶対アタシを待っている。アタシがこのサンドイッチと何かおかずを持っていくこと期待して、誰かとのランチも断っている。スコールのうさんくさそうな目を尻目に、口笛なんて吹いていたりして。
そして、いつもの校庭の木陰で、寝そべっているんだろう。
アタシは分かる。
何でかって、だって、それは。
例えて言うなら、それは。


ーーーそれは、何やろう?
よくは分からないけれど、とても暖かなもの。ほんわかするもの。
名前なんてつけられないけれど、確かにここに、そこに存在しているもの。


例えて言うなら、それはね。


「教えないよ」


アタシは、そんな風に言うだろうアーヴィンのことを思い浮かべた。
部屋に差し込むひかりや空気は、とても眩しくて暖かかった。


















FAHRENHEIT
のいそあ様より、相互リンク記念で頂きました!!
もう、もう、いそあさんの文章の大ファンなのですっごい感激モノです!!

寝相の悪いセルフィと、面倒見の良いアーヴァインが堪りませんv
少しわがままセフィと甘やかしアーヴィンはアーセルの醍醐味だと思いますv
孤独とちゃんと向き合った上でお互いを信頼し合っている。
甘い、でも甘すぎない。
そんな二人が素敵ですね☆

いそあさんの書かれるお話は、、とても身近に感じられるのと、所々に散りばめられているいそあさんのセンスで、
最後に温かい気持ちになれるので本当に大好きです。
いそあさんの文章センスは本当に憧れます。

幸せな気持ちになれるSS、本当にどうも有難うございました・・・!!

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